松江地方裁判所 昭和27年(行)2号 判決
原告 田中勝一
被告 鳥井村長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年六月二十四日なした島根県安濃郡鳥井村議会の解散処分は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、右請求が理由のないときは、「被告が昭和二十七年六月二十四日なした島根県安濃郡鳥井村議会の解散処分を取り消す」との判決を求める旨の申立をなし、その請求の原因として次の通り陳述した。
原告は、島根県安濃郡鳥井村議会(以下単に議会と称する)の議員の地位にあつたものであり、被告は、現に同村長であるが、被告村長は、昭和二十七年六月二十四日午後八時三十分第八回議会の臨時会を招集し、急施を要する事件として、議第四十五号鳥井村久手町境界変更に関する件、議第四十六号中学校生徒の一部を久手町中学校委託に関する件及び議第四十七号鳥井村中学校建設に関する件の三議案を提出し、議会の会議に付議した。右の三議案の内容は次の通りである。すなわち、議第四十五号議案は、鳥井村の東部地区たる大字鳥越地区(鳥越、新田、越峠の三部落)と迫部落とを久手町に合併して鳥井村と久手町との境界を変更することに関する昭和二十七年四月二十八日第五回議会臨時会における議決の撤回を求めるもの、議第四十六号議案は、前記臨時会における議決に基いて鳥井村東部地区居住の中学校生徒約五十名を久手町中学校に委託する時期を昭和二十七年四月一日とすることに関する議決を求めるもの、また、議第四十七号議案は、昭和二十七年度において鳥井村中学校の単独校舎を建設することに関する前記臨時会における議決を維持すべきか否かについての議決を求めるものである。そして、もともと議第四十五号議案の内容をなしている境界変更については、前記臨時会で原告から緊急動議として提出したものであり、議第四十六号及び議第四十七号の各議案は、右臨時会で上程された議第二十号及び議第十九号とそれぞれ同一の内容のものであつて、いずれもすでに可決確定のものであり、且つ、右の三議案はその内容において議第四十五号議案を基本としてそれぞれ関連をもつており、一括して審議しなければならないものであるが、議第四十五号議案における境界変更の問題は、地理的経済的な理由により、明治時代からの東部地区部落民の要望であり、最大の関心事であるだけに、既定の議決を変更することになるからには、少くとも東部地区選出議員としては、その部落民との協議を経て慎重に研究調査すべきものであつて、それには、前示臨時会の当日突然招集せられたような議会において議決するのは不適当であり、且つ、午後九時三十分開会されてから午後十一時五十分閉会に至る深夜に及んでも議決することは困難であつたため、議会は審議未了の議決をした。ところが、被告村長は、右の審議未了の議決を以て自己に対する不信任の議決とみなし、即日議会を解散したのである。
いつたい、地方自治法によれば、普通地方公共団体の長が議会を解散することのできるのは、議会が長に対する不信任の議決をしたとき又は同法第百七十七条第四項の規定によつて長が不信任の議決とみなすことのできる議決をしたときに限られているのであつて、これらの議決がない以上、長は、議会を解散する権限を有しないわけである。本件では、右のように被告村長によつて不信任の議決とみなされ得る議決のないのは勿論、右の審議未了の議決を以て被告村長に対する不信任の議決とは解し得ないのに拘らず、これを不信任の議決があつたものとしてなした被告村長の前記解散処分には、地方自治法第百七十八条第一項の規定に違反する重大且つ明白な瑕疵があるから当然無効である。
仮にその瑕疵が重大且つ明白なものでないとしても、右のような瑕疵がある以上、被告村長の前記解散処分は取り消されるべきものである。
以上のようなわけであるから、原告は、先ず、前記解散処分の無効であることの確認を求め、右の請求が理由のないときには前記解散処分の取り消しを求めるため、本訴請求に及んだのである。
なお、被告村長は、東部地区住民に対して中学校建設費と疫痢赤痢蔓延対策費を負担させることと、議会の構成が東部地区選出議員八名、西部地区選出議員七名、議長一名のままでは東部地区に不利益な議決ができないので、西部地区選出議員を増加することを目的として本件解散処分をなしたものである。
次に、原告訴訟代理人は、被告の答弁並びに抗弁に対して次の通り陳述した。
被告の主張事実はすべて否認する。
(一) 政府が道州制実施を目論み、また、府県において市町村の併合を勧説している現在では、ただ単に市町村の分割を目的とする境界変更は承認されないかも知れないが、本件のように鳥井村東部地区と久手町との合併を目的とし、且つ、鳥井村西部地区は当然静間村又は大田町に合併されることを予定している場合は、政府又は府県の行政方針に何等背反するものではなく、むしろその方針にそうているものといわねばならない。
(二) 右の境界変更について、被告は、その議決を無視して県に対して何等の交渉も行つていないし、県がこれに反対した事実は全然ない。
(三) 鳥井村東部地区居住の中学校生徒約五十名について昭和二十七年四月一日から久手町に寄留することにしたのは、右の境界変更に関する議決がすでになされているにも拘らず、そのための正式の行政的措置がとられていなかつたため、やむを得ない非常手段として被告村長の承認を得てしたことである。
(四) 被告村長は、前記境界変更の議決の成立した昭和二十七年四月二十八日の第五回臨時会では、右境界変更によつて鳥井村の財政上に格別の支障を来たすようなことはなく、中学校の建設については、増税、労力奉仕、寄附にはよらないでも、一般会計の節減、起債、補助、一時借入金で賄えると言明していた。
(五) しかるに、被告村長は、昭和二十七年度の地方財政平衡交付金と六三制建築整備要綱に基く国庫の補助金について、昭和二十七年度の生徒数を基準とすれば昭和二十六年度の生徒数約百八十名から久手町に寄留した約五十名を控除したその余の約百三十名に過ぎなくなるところから、むしろ昭和二十六年度の生徒数を基準としてこれを要求するため、右の境界変更に関する議決の取り消しと共に、右中学校生徒の委託の時期を昭和二十七年四月一日に遡らせようとするものであり、これに対しては、当時、鳥井村住民の大部分が反対したばかりでなく、久手町長もまたこれを拒否したのである。
(六) 審議未了ということは、即時議決せずにおいて調査研究をし、且つ部落民の意向をも確めた上で議決すべきものであるという意味に過ぎない。本件の臨時会において、議長は、被告村長に対しただ審議未了の通知をしただけであつて、不信任の議決の通知まではしていない。それにも拘らず、被告村長が審議未了の議決を以て自己に対する不信任の議決とみたのは、全く勝手に主観的な解釈をしただけのことである。
(七) 昭和二十六年五月の議会での当時の村長の提議によつて、東部地区は久手町と、西部地区は大田町と、それぞれ組合立中学校の建設準備中、同年末に至つて西部地区の一部の者が単独校舎の建築を主張し出したことから、村長と西部地区選出議員十一名が辞職したことがあるが、その際、東部地区選出議員の辞職しなかつたのは、東部地区としては久手町との組合立中学校建設の方針に何等の変更がなかつたからである。
被告訴訟代理人は、主文と同じ趣旨の判決を求める旨の申立をなし請求の原因に対する答弁並びに抗弁として次の通り陳述した。
原告の主張事実のうち、原告が島根県安濃郡鳥井村議会の議員の地位にあつたこと、被告が現に同村長であること、被告が原告主張の日時その主張の臨時会を招集し、その主張の三議案を提出してその会議に付議したこと、右の三議案の内容が原告主張の通りのものであること、議会が審議未了の議決をしたこと、被告が即日議会を解散したことは認めるが、その余の点はすべて否認する。
(一) 被告が原告主張の三議案を提案した理由は次の通りである。すなわち、議第四十五号議案については、その内容をなしている境界変更の問題が何等急施を要しないのに拘らず予め告示をしないまま昭和二十七年四月二十八日第五回鳥井村議会臨時会で議決をしたのは地方自治法第百二条第四項に違反し、且つこれに対する県の議会の承認を得る見通しもつかず、かような議決の存在はかえつて他の村政に悪影響を及ぼすので、その議決の撤回を求めるにある。議第四十六号議案については、前回の議決に基いて交渉したところ、久手町においては、昭和二十七年六月三十日までは寄留として取扱い、同年七月一日から委託を受け入れる方針であることが判明したが、鳥井村としては、元来委託とすべきものを委託とせず、また実際には寄留せずにいながら虚偽の届出をすることが不当であるだけでなく、委託の起算日を四月一日とするか七月一日とするかによつて昭和二十七年度の地方財政平衡交付金に差異を生ずるので、やはり委託の時期を昭和二十七年四月一日とする議決を求めるにある。また、議第四十七号議案については、前回の議決に基き島根県教育庁施設課と折衝の結果当初の見込に従つて昭和二十六年四月一日現在の生徒数百八十名を基準として約三百万円の予算で建設することを議会ですでに可決を見、すでに敷地を買収し、六、三制建築整備要綱に基く昭和二十七年度の国庫補助金の交付の申請をしていたところ、昭和二十七年六月二十四日教育庁から、鳥井村中学校については、昭和二十七年四月一日現在の生徒数を基準とすることを認めるならば昭和二十七年度の補助の対象とするが、さもなければ同年度の補助の対象としない。明日補助金額の割当をするから直ちに回答されない旨通告して来たのであつて、同年度内に建設するためには教育庁の右の通告を承認しないわけに行かないであろうが、そういうことになれば、前記の寄留の関係から久手町中学校に通学する生徒数約五十名を控除した残余の約百二十五名を基準とすることになり、すでに可決済の予算について百万円近くの修正を見ることになるのであるが、右の通告を承認して前回の議決を維持するか又は維持しないで次年度に延期するかのいずれかの議決を求めるにある。しかも、右の三議案が早急に審議されねばならぬ事情は次の通りである。すなわち、議第四十五号議案については、前記のようなわけであるから、もともとできるだけ速かに前回の議決を撤回すべきものである。議第四十六号議案については、交渉の都合上六月二十七日の久手町議会に間に合わせるには、後記の通り同月二十五日以降被告が差支えのため同月二十四日を除いて余日がなかつたのである。また、議第四十七号議案については、教育庁から前記の通告のあつたのが六月二十四日午後のことであり、しかも同月二十五日には島根県下における補助の対象となるべき中学校が決定されるので、被告が教育庁施設課に出向いて折衝するためにはどうしても同月二十四日中に議決を得なければならないのであつて、若しこれを得ることができなければ、被告としては前示教育庁の通告に対し回答の仕様がなく、昭和二十七年度において補助金を受けることができなくなるが、すでに鳥井村中学校の新築の準備を始めていた被告としては全く窮地に立つことになるのである。そういう事情については、被告は、会議において説明したから、議会としても十分わかつていた筈である。しかも、右の三議案は、必ずしも一括して審議しなければならないものではなく、またいずれも早急に審議して結論を出すことも可能であつたのである。それにも拘らず、議会が審議未了の議決をしたことは理由を表面に出さないで右の三議案を否決したものであり、それは、実質において被告に対する不信任の議決に外ならない。さればこそ、議決当時における出席議員十三名のうち山崎勘一議員を除くその他の議員十二名は、右の審議未了の議決が被告に対する不信任の議決であることについて何等の異議なくこれを認め、議長藤田源市も、被告から右の審議未了は自分の不信任ではないかと問われたのに対して、そういうことになると答え、右審議未了が被告に対する不信任の議決となることを確認して、これを被告に通知したのである。そこで、被告は、議会の被告に対する右の不信任の議決を前提として議会を解散したのであるから、右の解散処分は正当である。
(二) 仮に右の解散処分が違法であるとしても、(イ)鳥井村議会議員の定数は十六名であるが、昭和二十四年五月六日一般選挙施行後、そのうち十一名までが昭和二十六年四月及び昭和二十七年四月の補欠選挙によつて選出された者である。鳥井村の東部地区の人口は、西部地区の三分の一であつて、従来村会議員は、東部地区より四名、西部地区より十二名選出せられるのを例としたが、昭和二十七年三月鳥井村中学校の設立に関連して西部地区選出議員が全部辞職したのにかかわらず、東部地区選出議員は一名も辞職しないでそのまま補欠選挙が行われたため、両地区選出議員の数は各八名となつたものである。従つて、現在の議会は、村民全体の意思を正しく反映していないこと、(ロ)鳥井村では、かねがね東部地区と西部地区とで住民の利害が対立しており、議員の定数の過半数を占めるに至つた東部地区選出議員八名は、東部地区の利害にのみ拘泥して村政全般に対する公正な立場を忘却していること、(ハ)本件の審議未了の議決も東部地区選出議員の策動の結果であること、(ニ)すでに議員の任期も昭和二十八年春までに切迫しており、新たに民意に副う選挙を行うのに適していること、以上のような諸事情を考慮すれば、鳥井村の現状としては、旧来の感情的な対立を解消し、新しい民意を求め、これによつて村政を審議すべきであつて、そのためにはむしろこの際議会を解散すべきものでこそあれ、その解散処分を取り消すことは公共の福祉に適合しないから、行政事件訴訟特例法第十一条によつて本件請求は棄却されるべきものである。
従つて、原告の請求はすべて失当である。
(各立証省略)
三、理 由
原告が島根県安濃郡鳥井村議会(以下単に議会と称する)の議員の地位にあつたこと、被告が現に同村長であること、被告村長が昭和二十七年六月二十四日午後八時三十分第八回議会臨時会を招集し、急施を要する事件として、議第四十五号鳥井村久手町境界変更に関する件、議第四十六号中学校生徒の一部を久手町中学校委託に関する件及び議第四十七号鳥井村中学校建設に関する件の三議案を提出し、議会の会議に付議したこと、議会が審議未了の議決をしたこと、被告が即日議会を解散したことは当事者間に争がない。
そこで、被告村長のなした議会の解散処分が違法かどうかについて判断する。
被告村長が提出した前記三議案の内容について検討するに、議第四十五号議案が鳥井村大字鳥越地区(鳥越、越峠、新田の三部落)と迫部落とを久手町に合併して鳥井村と久手町との境界を変更することに関する昭和二十七年四月二十八日第五回議会臨時会における議決の撤回を求めるもの、議第四十六号議案が前記臨時会における議決に基いて鳥井村東部地区居住の中学校生徒約五十名を久手町中学校に委託する時期を昭和二十七年四月一日とすることに関する議決を求めるもの、また、議第四十七号議案が昭和二十七年度において鳥井村中学校の単独校舎を建設することに関する前記臨時会における議決に関するものであることは、当事者間に争がない。
次に、右の三議案に対する被告の提案の理由についてみるに、成立に争のない乙第一号証、証人藤田源市、山崎馨の各証言並びに被告本人訊問の結果によれば、議第四十五号議案については、その内容をなしている境界変更の問題が何等急施を要しないのに拘らず、予め告示をしないまま昭和二十七年四月二十八日第五回鳥井村議会臨時会で原告からの緊急動議に基き議決をしたものであつて、地方自治法第百二条第四項に反し違法であるのみならず、これに対する島根県議会の承認を得る見通しもつかず、かような議決の存在はかえつて他の村政に悪影響を及ぼすので、その議決の撤回を求めるにあること、議第四十六号議案については、第五回議会臨時会の議決に基いて交渉したところ、久手町においては、昭和二十七年六月三十日までは鳥井村東部地区居住の中学校生徒約五十名を寄留として取扱い、同年七月一日から委託を受け入れる方針であるが、鳥井村としては、元来委託とすべきものを委託とせず、また、実際には寄留せずにいながらこれを偽装していることが不当であるだけでなく、委託の起算日を四月一日とするか七月一日とするかによつて地方財政平衡交付金に差異を生ずるので、やはり委託の時期を昭和二十七年四月一日とする議決を求めるにあること、また、議第四十七号議案については、前回の議決に基き島根県教育庁施設課と折衝の結果当初の見込に従つて昭和二十六年四月一日現在の生徒数約百八十名を基準として約三百万円の予算で新校舎を建築することになり、議会でその予算の可決を見、すでに敷地を買収し、昭和二十七年度の補助金の交付の申請をしていたところ、突然昭和二十七年六月二十四日教育庁から、鳥井村中学校については、昭和二十七年四月一日現在の生徒数約百二十五名を基準とすることを認めるならば昭和二十七年度の補助の対象とするが、さもなければ同年度の補助の対象としない旨通告して来たのであつて、同年度内に建設するためには教育庁の右の通告を承認しないわけに行かないであろうが、そういうことになれば、新校舎の建築の予算について百万円近くの修正を見ることになるので、右の通告を承認するかどうかについて議決を求めるにあることが認められる。そして証人藤田源市、山崎馨の各証言及び被告本人訊問の結果によれば、右三議案は必ずしも一括して審議しなければならないのではなく、特に緊急に議決する必要のある議第四十七号議案のみについて議決することも可能であつたことを認め得る。なるほど成立に争のない甲第七号証、前示乙第一号証、証人山崎勘一、田中金蔵の各証言、原告本人訊問の結果によれば、議長が右三議案の一括審議を求めたこと、従来鳥井村においては、中学校の建設が重大問題となつていて、その問題をめぐつて紛議は続き、遂に同村東部地区は久手町と、西部地区は大田町と、それぞれ組合立中学校を建設し、鳥井村中学校は建設しないことに議会で議決せられていたところ、前示昭和二十七年四月二十八日の第五回議会臨時会において従前の議決を無視して鳥井村中学校単独校舎建設の件が付議せられるに至つたので、原告等東部地区選出議員は、あくまで東部地区は久手町中学校へ統合すべきこと並びに鳥井村中学校校舎の新築について東部地区住民はその費用を負担できないことを主張して単独校舎の建設に反対し、議会は混乱に陥つたこと、原告は右臨時会において緊急動議として前示境界変更の件を提案したのであるが、結局被告と議員等との間に妥協が成立して、右境界変更の件が可決されると共に、前示単独校舎建設の件と東部地区の中学校生徒を久手町中学校に委託する件とが同時に可決されたこと、従つて、前記三議案はその内容において互に関連したものであることを認め得るけれども、この事から直ちに右三議案が必ず一括して審議しなければならないものであると結論することはできない。
前示乙第一号証、証人山崎勘一、森脇孝策、渋谷俊太郎、藤田源市、木村信七、山崎馨の各証言並びに被告本人訊問の結果を綜合すれば、前示の通り昭和二十七年六月二十四日教育庁から被告村長に対し、鳥井村中学校の建設について、昭和二十七年四月一日現在の生徒数約百二十五名を基準とするならば、昭和二十七年度の補助金交付の対象とするが、さもなければ同年度の補助の対象としない、明二十五日補助金額の割当がなされるから、直ちに回答されたい旨通告して来たので、被告としては、翌二十五日教育庁に出向いてその回答をするためには、どうしても二十四日中に議会の議決を経る必要があつて、同日前示臨時会を招集して前記議第四十七号議案を付議したものであること、従つて、議会において議決を得られないことになれば、被告としては、前記通告に対し回答の仕様もなく、昭和二十七年度において補助金を受けることができなくなるが、そうなれば、すでに鳥井村中学校単独校舎の建設について予算措置を講じ、その敷地も買収して、その建設の準備に着手していた被告としては全く窮地に立つに至り、当面の重大な村政の執行に障害を来すこと、被告は右臨時会において右の事情を詳細に説明したこと、被告は昭和二十二年五月より昭和二十三年四月まで、昭和二十五年四月より昭和二十六年三月まで鳥井村村長の職に在つたが、その際は組合立中学校を主張して、鳥井村中学校の単独校舎の建設に反対し、また、東部地区の分村についても同情的立場を取つていたのにかかわらず、昭和二十七年四月鳥井村村長に選ばれてからは、その態度を変更し、前示第五議会臨時会に鳥井村中学校単独校舎建設の件を提案し、また右議会において可決せられた境界変更の件についても、その後右議決が違法であることを主張してその実現に努力しなかつたため、東部地区選出議員等は被告に対し強い反感をいだくに至つていたこと、そこで、主として東部地区議員等は、前記議第四十七号議案を当日直ちに議決することが容易であつたにかかわらず、被告を窮地に陥れる目的で、前示三議案の一括審議を主張し、議第四十五号議案及び議第四十六号議案を議決するについては部落民との協議を経て慎重に研究調査しなければならないことを理由に、被告の反対にもかかわらず右三議案共審議未了の議決をしたこと、右審議未了の議決がなされるに際し、議長藤田源市は、議員等に対し、審議未了とすれば被告村長が困ることになるから、審議未了は被告不信任案となるのではないかと注意を与えたが、遂に当夜の出席議員十三名(全議員数は十六名)により審議未了の議決が成立したこと、そこで、議長は、被告に対し被告不信任を内容とする審議未了の議決が成立した旨を通知したので、被告は議会の解散を命じたものであること、もつとも、その際山崎勘一議員は不信任のために審議未了とするものではない旨釈明したけれども、同議員は解散を嫌つてかかる発言をしたものであることは明白であり、同議員は審議未了とすることを最も強硬に主張した一人であつて、その主張の真意は被告に対する不信任であり、前示の通り被告を窮地に陥れる目的に出たものであることを認めることができ、証人山崎勘一、森脇孝策、田辺勘助、大沢勘二郎、田中金蔵、田中金太郎、大野京市の各証言及び原告本人訊問の結果中、右認定に反する部分は容易に信用できない。
いつたい、地方自治法によれば、普通地方公共団体の長が議会を解散することができるのは、同法第百七十八条の議会が長に対する不信任の議決をした場合と、同法第百七十七条第四項によつて不信任の議決とみなし得る場合とに限られている。ところで、右の場合には議会と長との対立がもはや尋常一様の手段を以てしては解決できないのであるから、地方自治の本旨に基き一般住民の意思によつて、議会と長とのいずれを正当とするかを決定せしめるために、議会の解散が認められているのである。従つて、右第百七十八条にいわゆる不信任の議決は、議会が長に対する不信任案を正式に可決した場合のみに限らず、議会が同条第三項所定の四分の三以上の多数決を以て、明らかに長に対する不信任の意味を以て、長提案の重要議案を否決したり或はこれを審議未了として、故意に長を苦境に陥れ、その結果長と議会との対立が破局的となり、そのいずれを正当とするかの判断を一般住民の意思に委ねるのが客観的に妥当と思われる場合をも指すものと解するのを相当とする。もつとも、右第百七十八条の不信任決議をこのように広く解釈することについては、長がほしいままに議会を解散して、議会を不当に圧迫するおそれを生ずるとの非難があるかも知れないが、解散後初めて招集された議会において過半数を以て不信任の議決がなされれば、長はその職を失うわけであり、また、一般住民は解散権を濫用する長に対し解職の請求をすることもできるのであるから、右の如き広い解釈をしても、その弊害は少いものといわねばならぬ。かえつて、議会と長との間に破局的な対立があり、地方公共団体の行政の運営が行詰つたような場合には、議会を解散して一般住民の意思を問い、その意思に従つて運営せられることこそ、地方自治の本旨に副い、民主主義の原則に適合するのである。
さて、本件の審議未了の議決は、前に認定した通り被告を窮地に陥れる目的で法定多数を以て可決せられたものであつて、議長は被告に対し被告の不信任案を内容とする審議未了の議決である旨を通知したものであり、また、右審議未了の結果緊急を要する重大な村政の執行が妨害せられたのである。そして、以上に認定した諸事実と本件口頭弁論の全趣旨を綜合して考えると、被告村長と議会との対立は、もはや破局的な段階に達しており、議会の解散により、あらためて一般村民の意思を問うことが妥当と思われる情勢にあつたことが察知せられるから、本件審議未了の議決は、実質的には地方自治法第百七十八条にいわゆる不信任の議決に当るものと解するのを相当とする。
しからば、本件解散処分には、何等の違法も存しないわけであつて、その違法であることを前提とする原告の本訴請求は理由のないこと明白であるから、原告の請求はすべて失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用した上、主文の通り判決する。
(裁判官 松本冬樹 阿座上遜 浜田治)